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静岡地方裁判所 平成6年(わ)31号 判決 1994年4月05日

本店所在地

静岡県富士市前田三二八番地

伸和鉄工株式会社

(右代表者代表取締役 吉野剛)

本籍

静岡県富士市前田三二六番地の一

住居

同県同市浜田町一三番地

会社役員

吉野剛

昭和一三年一月二二日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官匹田信幸及び弁護人小川良昭(私選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人伸和鉄工株式会社を罰金二五〇〇万円に、被告人吉野剛を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人吉野剛に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人伸和鉄工株式会社(旧商号 株式会社伸和鉄工所、平成五年四月二八日現商号に変更、同年五月七日その旨の登記)は、静岡県富士市前田三二八番地(旧本店所在地 同市前田八〇三番地の一、平成五年四月二八日現所在地に移転、同年五月七日その旨の登記)に本店を置き、鋼構造物の工事請負業を主たる目的とする資本金四八〇〇万円の株式会社であり、被告人吉野剛は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人吉野は、被告人会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空及び水増しの外注加工費を計上する等の不正の方法により、所得の一部を秘匿した上、

第一  平成元年七月一日から平成二年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三億五七二七万二一一六円であり、これに対する法人税額が一億三八八一万六八〇〇円であったのにかかわらず、平成二年八月三一日、同市本市場五九七番地の一所在の所轄富士税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二億三九二一万一四二五円であり、これに対する法人税額が九一五九万三三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額との差額四七二二万三五〇〇円を免れ

第二  平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三億五八五七万〇〇二九円であり、これに対する法人税額が一億二七七三万八五〇〇円であったのにかかわらず、平成三年九月二日、前記富士税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二億八四八七万八三六六円であり、これに対する法人税額が一億〇〇一〇万四〇〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額との差額二七六三万四五〇〇円を免れ

第三  平成三年七月一日から平成四年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が二億三一三六万四八三四円であり、これに対する法人税額が八二七九万五二〇〇円であったのにかかわらず、平成四年八月三一日、前記富士税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一億八二八七万一四八三円であり、これに対する法人税額が六四六一万〇三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額との差額一八一八万四九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)(必要に応じて証拠等関係カードの番号を各証拠の末尾の( )内に甲〇又は乙〇のように適宜付記する。)

判示事実全部について

一  被告人会社代表取締役兼被告人本人吉野剛の当公判廷における供述

一  被告人会社代表取締役兼被告人本人吉野剛の検察官に対する供述調書(乙15)

一  被告人会社代表取締役兼被告人本人吉野剛の大蔵事務官に対する質問てん末書一二通(乙1ないし8、10ないし12及び14)

一  登記官小林武作成の商業登記簿謄本(乙16)

一  笠原清(甲40)及び南寿昭(甲47)の検察官に対する各供述調書

一  笠原清(五通)(甲32、33、35、36及び39)、南寿昭(五通)(甲41ないし45)、佐野祥吾(甲48)、岩辺光一(二通)(甲50及び51)、吉野早苗(甲52)、岡島惠夫(二通)(甲59及び60)、鈴木正枝(甲63)、大林信彦(甲67)、吉良美智代(甲72)並びに須山昭八郎(甲73)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一五通(甲1ないし5、7、8、10ないし15、17及び18)

一  検察事務官作成の報告書(甲19)

一  大蔵事務官作成の証明書(甲31)

判示第一及び第二の各事実について

一  被告人会社代表取締役兼被告人本人吉野剛の大蔵事務官に対する質問てん末書(乙9)

一  笠原清(甲38)、寺岡勲(甲69)、山川幸雄(甲70)及び林征一(甲74)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

判示第一の事実について

一  笠原清(甲34)、佐野孝(二通)(甲61及び62)、木下幸雄(甲65)、遠藤清文(甲68)、石神清(二通)(甲75及び76)並びに吉村幸雄(二通)(甲77及び78)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の証明書二通(甲22及び26)

判示第二及び第三の各事実について

一  被告人会社代表取締役兼被告人本人吉野剛の大蔵事務官に対する質問てん末書(乙13)

一  武田和彦(甲66)及び山川俊雄(甲71)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書三通(甲6、9及び16)

判示第二の事実について

一  笠原清(甲37)、南寿昭(甲46)、市川裕(二通)(甲55及び56)並びに市川進(甲57)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の証明書二通(甲23及び27)

判示第三の事実について

一  吉野正幸の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(甲53及び54)

一  大蔵事務官作成の証明書二通(甲24及び28)

(法令の適用)

被告人らの判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告人会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社については情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、被告人吉野剛については各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上はいずれも刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金二五〇〇万円に、被告人吉野剛については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年に、それぞれ処し、被告人吉野剛に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、静岡県富士市内で鋼構造物の工事請負業を主たる目的とする被告人伸和鉄工株式会社の代表取締役をしていた被告人吉野剛が、被告人会社が過去二度倒産寸前の状態となった際多大な労苦を味わった経験から、被告人会社の内部留保を大きくするとともに、担保価値のある資産を増やそうと考え、その工作用の裏金に充てたり、いざという時に使える現金を貯める等の目的で、三年間に合計九三〇四万二九〇〇円(ほ脱率二六・六三パーセント)という多額の法人税を免れたという事案である。その犯行態様は、被告人吉野剛が、部下の経理部長や工場長に指示するなどした上、その事情を了解している関連会社や多数の下請業者らに架空請求や水増し請求をさせ、その代金相当額を小切手や銀行振込等の方法で支払ったことにして当該額を現金で返戻させるなどし、これを自己の管理する金庫内に保管し、必要の都度、そこから出して裏金等に充て、一部は同被告人自身の個人的な住宅建築資金に充てるなどしていたもので、計画的犯行である上、手口も巧妙であり、ほ脱額も多額であることなどに照らすと、本件犯情は悪質である。そして、この種脱税犯罪は、源泉徴収等でほぼ一〇〇パーセントの納税義務を果たしている給与所得者や、正直に納税申告を行っている誠実な納税者をして税負担に対する不公平感を醸成させ、ひいては、納税制度の基本である納税申告制度をも危うくするものであって、この点をも合わせ考えると、被告人らの責任は重いと言わなければならない。

しかしながら、被告人会社は、本件発覚後の平成五年八月には各期の所得について全て修正申告して法人税本税を納付したこと、本件がマスコミ等で広く報道されたことなどにより被告人会社の信用が失墜し、金融機関の融資を受けるのも困難な状況になるなどの社会的な制裁も受けていること、被告人吉野剛は本件犯行を深く反省、悔悟し、今後は税理士に真実の経営状況を伝え、その指導・監督に従い、納税義務を厳守していく旨を誓約していること、被告人吉野剛の妻も今後被告人会社の健全な経営に協力する旨述べていること、その他弁護人の指摘する被告人らのために酌むべき事情もあるので、以上を総合考慮し、被告人らについて主文掲記の刑を定め、被告人吉野剛についてはその刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人伸和鉄工株式会社につき罰金二八〇〇万円、被告人吉野剛につき懲役一年)

(裁判官 伊東一廣)

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